夏休みの宿題の思い出。

毎年この時期になると、夏休みの宿題の思い出が頭をよぎります。
エピソードに事欠かないのは私が余程あれこれやらかしていたからでしょうが、
今回はその中でも一番鮮烈な思い出話を一つ。

小学生の頃、夏休みに『菊を育てる』という宿題がありました。
しかし夏休み前に菊の鉢植えを家に持ち帰った時点で、

すでに私の心は楽しい夏休みの計画でいっぱいで、
自慢ではありませんがその後一度も水をやった記憶はなく、菊のこともすっかり忘れ去っていました。

そして、夏休みの終わり頃にふと菊のことを思い出し見に行ってみると、
お察しのとおり、菊は見事に枯れていてもはや再生不能の状態に…。
見るも無残な姿になり果ててしまった私の菊。
さすがにこんな代物を学校に持って行ける訳もなく、枯れた菊の前で私は途方に暮れていました。
すると、そんな私を見かねたのか、祖母が「じゃあ、これを持って行きなさい」と、
自分が育てていた菊を私の鉢に植え替えてくれたのです。

これで無事に難局を乗り切ったと思いきや、
始業式の日に教室でみんなの菊を見た瞬間に私は愕然としました。
みんなの鉢には小さくて可愛らしい花がたくさん咲いているのに、
私の菊だけ見事な一本仕立ての菊。
見るからに別物で、かろうじて共通しているのは菊の色だけでした。
その圧倒的な大きさと存在感は他の菊をまるで寄せ付けず、
品評会であれば間違いなく断トツの優勝です。
おそらく祖母は可愛い孫が恥をかかないように、丹精込めて育てた中から
選りすぐりの菊を鉢に植えてくれたのだと思います。

私がこの想定外の出来事に驚きたじろいでいると、次の瞬間、背後から
「わぁーツツミ君の菊大きい!」 という驚嘆の声が上がりました。
これ以上騒ぎ立てられてなるものかと目立たない所に菊を隠そうとしたのですが、
あまりの大きさに隠しようもなく、気付くと私の菊はみんなから取り囲まれ注目の的になっていました。
私は気まずさと恥ずかしさの中で、ただひたすら時間が過ぎ去るのを待っていたのですが、
有り難くないことにいつの時代にも鋭い子どもはいるものです。
次第に「これ大きすぎない?」「種類が違うんじゃない?」といった疑惑の声が上がり始め、
しまいにはよく遊んでいる友達から

「お前のとこのばあちゃんの菊を植え替えて持ってきたろ?」
という引導を渡されるような言葉まで飛び出す始末。

残念ながらこれ以降の記憶は残っていませんが、
ただ私の胸にしっかり残っているのは、大菊を鉢に植え替えてくれた祖母のことです。
サザエさんに出てくるカツオ君並みにちょっとばかりお間抜けな結末になってしまいましたが、
その優しい気持ちを思うと、この夏の暑さ以上に私の胸も熱くなるのです。