実は依頼先によって大きく変動するのが工事の金額です。実際に複数の業者から見積りをとってみると、同じ工事の見積りなのに倍以上金額が違う場合も少なくありません。こうなると、ますます何を信じていいのか分からなくなります。
「見積りの高い業者はぼったくり業者?」「見積りの安い業者は手抜き工事をするのでは?」消費者から見るとこの金額差は「?」以外の何物でもありませんが、建築業に携わっている人からすれば、実はごくごく当たり前の話です。この金額差は、実はリフォーム業界の仕組みから生まれています。同じ内容のリフォームでも、どこに依頼するかで金額が大きく変わってくるのですから、最小の費用でリフォームを成功させるためには、最低限リフォーム業界の仕組みだけは知っておく必要があります。
リフォーム業者は無数にありますが、その種類は大きく分けて3つです。
この3つしかありません。例えばあなたが夫婦だけでやっているような(1)職人個人店に工事を頼むとします。リフォーム代というものは、そもそも職人の日当代(人件費)と材料代と諸経費ですので、例えば職人の日当代が 18,000円で、使う材料代が 10,000円、諸経費が 2,000円の場合、リフォーム金額は 30,000円になります。
次に、同じ仕事を(2)工事店に頼んだとします。工事店とは職人が営んでいる個人店と違って会社組織です。大工工事を専門とする会社は「工務店」ですし、塗装を専門とする会社は「塗装会社」です。従業員3人の会社もあれば何十人も雇っている会社まで、その規模は様々です。会社組織になったところで、同じ工事をするには同じ費用が掛かります。ただ、夫婦だけでやっているような個人店と違って、事務所の経費や会社の利益を確保しなければなりません。30,000円で引き受けてしまうと会社の利益はなくなってしまい、事務員さんの給料も払えなくなってしまいます。ですから工事店はこの金額で仕事を引き受けることはできません。30,000円は工事店にとっての原価なのです。
そのため、これに会社の利益が上乗せされた金額が、工事店の見積り金額になります。工事店の利益率の相場が15%前後と考えると、工事金額は35,000円(30,000÷85%)前後になります。つまり、知り合いの職人さんに頼めば 30,000円の工事が、同じ内容であっても工事店に頼むことにより35,000円くらいになり得るのです。
さらに、これが(3)リフォーム営業会社になるともっと金額は膨らみます。リフォーム営業会社とは、その会社の営業マンが受注した工事を下請けの工事店に外注する会社のことで、積極的に広告活動を行っている業者のほとんどがこれに当たります。実はこれらのリフォーム営業会社は表向きには建築会社ですが、中身は完全に営業の会社です。ですから驚くべきことに社員に職人は一人もいません。社員は営業マンなのです。彼らはお客様と話す時に、工事を外注する下請け業者のことを必ず「うちの職人は…」「うちの技術の者は…」と言うように教育されています。これはお客様に工事の外注を意識させないためです。けれども、その「職人」や「技術の者」とは、(3)リフォーム営業会社が外注する、下請けの(2)工事店の職人なのです。
リフォーム営業会社は、下請け工事店の見積りに自社利益を上乗せします。35,000円は下請けの工事店に支払わないといけないので、この金額がリフォーム営業会社にとっての原価になります。リフォーム営業会社の利益率は一概には言えませんが、大体30~40%くらいが一般的です。ですから、この場合35,000円にリフォーム営業会社の利益が上乗せされた金額50,000円(35,000÷70%)から、60,000円前後(35,000÷60%)がリフォーム営業会社の見積り金額になります。同じ工事でも個人の職人に頼めば30,000円の工事が、工事店に頼むことで 35,000円になり、これがリフォーム営業会社になると50,000~60,000円前後になるのです。
この事情は大規模なリフォーム工事でも変わりありません。工事店が350万円でやってくれるリフォームは、依頼先がリフォーム営業会社に変わっただけで500~600万円前後になります。工事店で700万円の工事はリフォーム営業会社では1,000~1,200万円前後になり得るのです。
これを逆に考えると、リフォーム営業会社から1,000~1,200万円の見積りをもらった場合、工事店であれば700万円前後でやってくれることがあり得るということです。このことは、あなたが実際に工事店とリフォーム営業会社から相見積りを取ってみると本当のことだとお分かり頂けるはずです。リフォーム営業会社の社員さんが自分の家をリフォームする時に、自分の会社を通さずに下請けの工事店に直接工事をしてもらうのは、そのためなのです。
このようにリフォームの値段は依頼先によって大きく変わるのです。普通の商品には定価があるため定価の何%オフという形での比較ができますが、リフォームの工事代は正直なところ値段があってないようなものです。同じリフォームでも業者が100万円と言えば100万円ですし、150万円と言えば150万円の工事なのです。
「ぼったくり」と思われるかもしれませんが、商品を小売店から買うかメーカーや問屋から買うかの違いと大して変わりありません。それにリフォーム営業会社はこれだけの利益を確保しなければ、経営が成り立たないのも事実であり、一つの仕事で30~40%以上の粗利を稼ぎ出す事は、大半のリフォーム営業会社にとって必要なことなのです。
ここまで読んで頂ければ、一般的にリフォーム営業会社よりも工事店に直接依頼する方がリフォーム代金が安くなることをお分かり頂けたと思います。しかし工事店のリフォーム営業会社に対する優位点は価格だけではありません。